テニスコラム『サポーターとテーピングの効果について』(前編)
2021.11.25 富樫亮
テニスからのお知らせ ≪筋肉は嘘つかない≫(号外編)第一弾 9校
<サポーターとテーピングの効果について>
【はじめに】
〇フォアハンドストローク(右利き)をイメージしながら読んでください。
テニスプレイ中に太ももが苦しくてボールを打つまで耐えられないという経験をお持ちの方は多いと思います。
これは太ももの上側の筋肉(大腿四頭筋)が弱ってきた証拠です。
本来、ラケットでしっかりボールを打つ(振り切る)動作は、低重心が必要です。
重心が低いほどコートを踏む力が強くなり結果的に強烈な打球を飛ばすことが可能になります。
トッププレーヤーのTV画像ではあまり膝を曲げていないように見えますが、試合会場でみるとかなり深く膝を入れて打ち込んでいるのがよく解ります。
またハイボレーのような高い打点でも重心は可能な限り低く、ラケットは高い打点でヒットしています。
勿論打つ瞬間のグリップ力と肩→肘→手首へ移動する関節の連続動作によるスイングスピードと、体幹を軸にした股関節の回転と筋肉の連続動作は大きく関係しますが、最終的にはコートに踏み込む(コートを蹴っての体重移動)力が大きな威力を発揮します。
一般的に女性に比べ男性がパワーショットを打ち込むことができるのは、この動作で自分の体重をボールに伝えることができるからです。
尚、錦織選手の「エアーケイ」のようなスペシャルハイテクニックは「体幹」を鍛えないと打てませんからここでは論外です。
ではこの重心の低さを維持して打つために何が必要なのかを日常生活の場面から説明していきます。
【テーピングからサポーターの時代】
東京2020大会出場選手たちの多くがテーピングやサポーターを装着していることに気が付いた方は多いと思います。テーピングの歴史は今から約150年前、アメリカの南北戦争で負傷した兵士の患部を梱包用テープで固定したことが始まりといわれています(諸説あり)。 ... 日本では1970年代から少しずつ広まり、当初は外国から輸入したテープを使用していました。 1981年に発売した「ニチバンスポーツテープ」は、初めての国産テーピングテープでした。
当時テーピング講習会がニチバンによって全国的に開催され、テニスクラブやスクールへの出張開催もあり当時のコーチたちは積極的に受講したものです。
① テーピングとは、解剖学的な構造および外傷・障害発生機転などに沿って身体の一部に粘着テープ、伸縮性テープを貼ったり巻いたりすることで運動器の機能をサポートし外傷予防を行うことです。
② テーピングを行う目的は、1)外傷予防・2)応急処置・3)再発予防、の3つに大別されます。
近年キネシオテープに代表される伸縮性テープ(別名:人口筋肉テープ)が開発されたことにより筋肉補助テープとして飛躍的に広がりました。関節を固定するだけでなく或る程度の可動域の調整と筋肉をサポートすることが可能になったことで、今ではスポーツシーンだけでなく医療や介護の現場でも使われています。
試しに両肩から上腕の半分くらいまで伸縮性テープを貼ってみると、サービスのトスとラケット操作が楽になります。これは両腕を上げる動作をテープが補助している効果です。
サポーターはこのテーピングの手間と時間を減らしました。テープを巻く技術と専門知識が必要ありません。一度購入したら長時間使用でき、洗うこともできるため衛生的で経済的です。この10年位でサポーターの機能が発達し、種類も爆発的に増えました。細かい部位のサポーターや価格も安価なものが多く出回るようになりました。それでもテーピングが存在している理由のひとつはサポーターに固定できない部位があるからです。
故障で悩んでいる方や予防したい方は積極的にサポーターを使用することをお勧めします。
コラム① 手首
テニスを始めてから手首に違和感や痛みを覚えるようになった。くるぶしが痛い。ものを持つ際に手首に痛みがでてきた。等の症状を感じた方は多いと思います。
手首の故障は多いです。痛みを感じたら無理なストレッチは禁物で安静が一番です。グリップに合っていないスイングや、手首から先だけでラケットを振り続けたとき、或いはラケットを振る方向を間違っている場合等沢山ありますが、原因は筋肉と腱の疲労です。テニスエルボーの原因にもなります。
安静が最短の治療法ですが、少しの痛みならテーピングでの補助でのプレイが可能です。
本格的な手首のテーピングは骨折したかのように大げさになりますからサポーターをお勧めします。同時に肘のテーピングも施してください。その方が肘への負担が少なくなり手首の回復も早くなります。また肩を支点にしたラケットの振り方を継続していると手首で打ってしまうケースが多く見受けられます。肩甲骨を使ってラケットを振るイメージを持ちましょう。そうすれば手首や肘への負担が軽減されスムースなスイングができるようになります。
手首のサポーターと種類
コラム② 握力低下
プレイ中やプレイ後に握力が弱くなったり痛くなったりしたことはありませんか?
初めてテニスに挑戦した多くの人が経験するものですが、疲れがとれないとか、痛みが出てきた、という方もいます。原因の多くはグリップを握るタイミングで全ての指を一度に全力で握りしめてしまうことにあるようです。
空手などの格闘技系の経験者に多く見受けられますが、はじめて道具を使うスポーツにトライする人の多くはこの経験をお持ちと思います。
すんなりとグリップに力を入れることが出来た人の多くは野球、バドミントン、ゴルフといった道具を使って飛ばすスポーツの経験者が多いようです。
握力が弱くなったと感じたら先ずプレイを中断してください。そして冷やすことです。同時に掌をできるだけ楽になる工夫をしてください。
無理にプレイを続けることは手首に更なる負担がかかってしまいます。
先ずは休むことをお勧めします。
その上で痛みが治まった次回のレッスンからサポーターを使ってプレイしてすることをお勧めします。
コラム③ 肘の痛み
重いものを長時間持ち続けたり、強く握る反復作業を繰り返したり、身体が疲れているときにパソコンのエンターキーを小指で何度も打ち続けたりすると痛みが発生することもあります。テニスでも多い故障のひとつです。
プレイ中にバックハンドとサービスを打つ時に肘が痛いという方に多いのがテニスエルボーの症状です。フォアハンドストロークを打つ時に痛みを感じる方はベースボールエルボーと呼ばれます。両方ともテニスプレイが原因と考えられますが、その多くは過剰プレイによる疲労の蓄積、或いはグリップの握り方の間違いによるもの、そしてグリップを握る際の強さと指の使い方からの不具合が多いようです。
他にもパソコンのエンターキーを小指で何百回も押し続けたための疲労からくる場合や、身体が疲れている際にスイートスポットを外してフレームでボールを打った瞬間に激痛が走った等、発生の原因は多くあります。
一般的な対応策は幅35mmのテーピングテープを腕の一番太い箇所に巻く。この際、自分の体重分のテープを巻くことをお勧めします。
例:体重60㎏の場合⇒テープは2重に巻く。
※これはこのテーピングテープの張力が、30㎏だからです。
巻き方も、一度に二重に巻くのではなく、きつくなり過ぎないようにひと巻きで切って、二回目を巻くことが大切です。この際、筋肉を緊張させた状態にして巻くことが求められます。つまりしっかり力が入った状態で巻くことです。
更に腕と一緒に手首にも巻きます。これは1回巻きで大丈夫です。理由は腕にかかる負担が手首に来るので手首を保護するためです。
サポーターを使用する場合も同様に筋肉を緊張させた状態でマジックテープやベルトを止めてください。テニスエルボーもベースボールエルボーも対応方法は同じですが、できる限り痛みが或る時はプレイを休んでください。早く治すためです。
痛みが無くなり次第、筋トレで治療を開始しましょう。壁に向かっての腕立て伏せから始めると簡単です。腕立て伏せの角度は徐々に床に平行にしていきましょう。回数は自分で決めること。痛みが出たらすぐ止めることが大切です。因みにサービス時、ラケットを振る手の小指は使いません。小指を強く握りしめると手首の可動域が狭くなりを痛める原因になりますから注意しましょう。
〇肘と手首のテーピングの例
〇肘のサポーター
コラム④ ひざ痛
階段を昇るのが辛くなったことを体験した方は多いと思います。膝がチクリと針で刺すような痛みが出る。原因は太ももの上の筋肉(大腿四頭筋)が低下してくると起こる現象です。
階段を上るときに必要な筋肉は立ち続ける筋肉と同じです。弱体化すると下りのエスカーターでも膝がガクガクして手すりに摑らないと怖い状態になります。
膝に筋肉はありません。そこで骨の上と両脇の筋肉の低下が起こると痛みが発生してきます。これは自分では気付かないうちにゆっくりと進行します。
膝上の両側の筋肉を強く掴んでみてください。痛みがあれば間違いなく弱体化しています。運動不足や加齢により誰でも経験することで病気ではありません。
簡単な改善策は先ずゆっくり歩くことです。痛みが無いようでしたらできるだけゆっくりと階段を昇ってください。駅や商業施設では降りるときは機械力を使いましょう。
電車通勤の方は駅やの階段を速足で利用している機会が多いので発症しにくいですが。自動車通勤とテレワークの皆さんは気が付かないうちに大腿四頭筋が低下していきますから気をつけましょう。速足で歩く、走る、は予防に適しています。
膝の痛みは我慢できないものですが、痛みが小さいうちに対応すれば大きな痛みになることを予防できます。それでも痛くなったら医師の診断を受けてください。
「変形性膝関節症」と診断された方でも治療すればテニスプレイはできるようになります。そこまでじゃないという方はサポーターを使いましょう。サポーターには何種類かありますが、膝が内側に折れ曲がることを防ぐワイヤーが入ったものがお勧めです。ジャンプ膝の方はサポーターのベルトの位置が異なります。
〇ひざサポーター(ワイヤー入り)
内反防止用
ジャンプニー用
コラム⑤ 腰痛(タイプA)
キッチンで食器の洗い物をしている途中で、お腹が前の下側に沈んでいくような状況に
なる、或いは駅で電車を待つ姿勢を維持しているのが辛くなった経験はありませんか?
そんな時、腹筋に力を入れると少し楽になります。原因は腹筋が背筋の力より弱っているため筋肉バランスを崩して前に沈むような態勢になるのです。そのままにしておくと「ギックリ腰」の原因になりやすい状況ですから気をつけましょう。
こんな時は、「クランチ」がお勧めです。
仰向けで寝てもらい、膝を90度に立て腰幅程度に開きます。両手は軽く頭を支えましょう。その姿勢からゆっくり目を「おへそ」方向に向けながら背中を丸めていきます。
丸めきれないところまで背中を丸めたら、またゆっくりと元に戻していきましょう。
何秒間できますか?腹筋が弱っている場合はお腹がどんどん下がってきます。或いは全くできない場合もあるでしょう。
腹筋の弱体化は「腰痛」の原因になります。スクワットは簡単な改善に繋がります。クランチもスクワットも自宅や職場でも簡単にできます。クランチは10秒単位で良いですからトライしてください。スクワットは自分のペースで5回から繰り返し行うと良いでしょう。少し慣れてきたら負荷をかけてやりましょう。腹筋はプレイと健康の必要条件です。
(写真モデルはダンロップスポーツ川口インストラクター今野みず紀さん)
〇クランチ
〇バックエステンション
〇スクワット
コラム⑥ 腰痛(タイプB)
前かがみになった時や下を向いただけで腰に痛みを感じる。椅子に長時間座っていると腰
に重苦しさを感じて姿勢を保っていることができない。靴の紐を結ぶ際に中腰で結ぶことが多い。こんな経験はありませんか?
このような症状の原因は腹筋と背筋のバランスが崩れている場合が多いようです。
若い世代の場合は過度の運動後の影響または事故による損傷(ケガ)の場合が多いですが、中高年の多くの原因は加齢です。つまり筋肉及び筋力の低下です。年齢を積み重ねることは自分が予想する以上に筋肉の減少が原因で筋力も低下します。
腰に激痛が走るレベルの人は、骨盤や脊髄に異常がある可能性がありますから整形外科医師の診断を受けて原因を究明して正しい治療を受ける必要がありますが、そこまでは未だないという方にお勧めするのは、
先ず、痛みがあるときは安静にするですが、痛みが少なくなってきたら「ゆっくり歩く」または「時間を決めて歩く」。
これに加えて、痛みがなければコラム①でお話しした「クランチ」「スクワット」がお勧めです。ゆっくりと無理せず回数は自由です。とにかくトライすることが大切です。
また腹筋と対の筋肉である脊柱起立筋とのバランスをとるために「バックエステンション」(トレーニングマシンもあります)を実施しましょう。
うつ伏せ姿勢でねてもらい、足は腰幅程度でリラックスし、両手は身体の横に。その状態から頭からおへそを床から離していくイメージで状態を持ち上げます。腰に程よい刺激を感じたらゆっくりと元に戻しましょう。こちらは最初10回か1セットから始めてみてください。
次の段階が「60分ノンストップ・速足で歩く」、または「10分間全速足で歩く、ゆっくり歩く、を60分の中で繰り返す」、或いは「マイペースでゆっくり30分以上走る」です。
注意:膝に故障のある方は走らないでください。
個人差はありますが、これを週に1回以上、1ヶ月~3ケ月程度行えば大方改善します。
また通勤途中や買い物の際に避けていた「階段を上る」(降りるときは機械力を使いましょう)、歩く、走る、階段を上る、は背筋と腹筋を多く使います。
便利な文明の社会生活を送ることは素晴らしいことですが、必要な筋肉を使わないで済ませることが多いことも事実です。自分の知らない間に筋肉が退化しています。できるだけバリアフリーから離れることを意識してみてください。
背筋と腹筋のバランスが崩れると「ぎっくり腰」を起こしやすくなりますから日常の生活の中でも急に立ち上がったり、急いで振り向いたり、飛び跳ねることは避けましょう。
〇腰痛時の緩和・補助に使用するお勧めサポーターの写真を何点か添付します。
それぞれ特徴があり軽度、中度、重度とありますが、日常生活の中で使用するのはベルトタイプをお勧めします。これだと衣服の下に隠れて脱着も簡単です。
それ以外はテニスやある程度以上の激しい全身運動をする時に使用することが望ましいでしょう。フロントでも扱っているものありますが、テニス専門店や量販店でも購入は可能です。が、販売員の説明が不安な時は止めてください。用具の知識が必要だからです。
〇骨盤をワイヤーで絞るスマート便利タイプ